何もしていないのに痛い。こんな方とお話していると怒ったことが痛みの原因につながっていることが度々あります。例を挙げながらご説明いたします。
自律神経は交感神経と副交感神経の2つがあります。前者は興奮や緊張した時に働くもので血圧や血糖値、心拍数を上げたりして、仕事、家事、育児、責任が重い場面などストレスがかかるときに使われます。
後者はリラックス、落ち着いたときに働きます。作用は真逆で血圧や血糖値などを下げ、内臓の動きが活発になります。副交感神経が働いてくれないと、良い睡眠はとれませんし、食後の胃腸の働き、トイレで行き損なんてこともあるでしょう。
感情と自律神経は密な関係です。怒りや悲しい場面に遭遇すれば交感神経が働き、笑いや落ち着いたときには副交感神経が働きます。
交感神経が強く働き過ぎると、筋肉が硬くなることは科学的に実証されています。つまり、激しいものや、長いこと続く怒りや大きな悲しみがあると筋肉が硬くなって血流が滞り、痛みにつながることがあるのです。
ある女性が定期的な施術で訪れた時、右の骨盤が開いていました。「あれっ!?」と思い、中殿筋を押すと(お尻の横の筋肉)いつになく硬い張り方をしていました。右の大転子(股関節の外側)のでっぱりも強く股関節周りが張っていました。この方は左側の骨盤が開くことはあります。股関節周りも張って大転子がでっぱることもあります。
「ちょっとおかしいですねえ?」と話しかけると、「実は昨日今日と右下腿前部(脛)が痛むんです。」と仰いました。この下腿前部の痛みは骨盤の開きから来たものです。
しかし、何をした覚えがなく、理由が見つかりませんでした。特別に身体を動かしたこともなく色々聞いても分かりませんでした。「実は…」と切り出し、家のリフォームのことでこんなことがあったのだとお話し下さいました。設計士さんと打ち合わせをしている中で、何度かとても態度が悪いことがあったらしく怒ったことがあったそうです。
「それです!」と私がお答えしてビックリなさっていましたが、こういうことがあるんです。よっぽど怒ったのでしょうね。何度か強く怒ったことで筋肉が硬くなり骨盤が開いてしまった結果、右下腿部が痛んだのです。
次の女性も定期的に通ってくださる方です。いつもは月1回のペースなのに何故か2回目のご予約が。お話を伺うと急に腰が痛くなったそうです。しかも習い事はお休みでゆっくり過ごしていたから何もしていないとのこと。
立ち上がったり座ったりすることが辛そうでした。横になって寝返りする時も痛みを感じていましたので、全ての動きがややゆっくりでした。施術すると、左腰が原因なのは明らか。確かに腰が悪くなっていました。筋肉の張りを確認すると、動かして張った感触ではありませんでした。
「ストレスはないですか?」と質問すると、やはりありました。ご友人たちと旅行の予定で、幹事をしていたそうです。その中の一人が、決めたことに対して文句を行ったり、一人だけ座席を変えたりお金を用意していなかったりとイライラすること1か月!ご本人は悪気がなかったようですが、苦労して決めた幹事さんとしては納得いかないでしょうね。
長い間怒りが続けば筋肉が硬くなってしまいます。施術はぎっくり腰のための施術をして、ストレス発散をするようにアドバイスしました。
上記の例のように、怒りが痛みにつながることは解っていただきました。最近、アンガーマネジメントという言葉があるように、怒りを上手くコントロールしよう、上手に付き合おうということはとても大事ですね。
ストレスと言えば発散することが大事です。ストレスを溜め込む量(容量)って人によって違うと思います。多い人、少ない人、それぞれあるでしょう。ただ、常にストレスを少なくしておけば、容量の小さい人が新しいストレスを溜めても満杯にはなりません。怒ったとしても無駄に怒ることはないし、キレることもないですね。但し、1発でキレるくらいの出来事は除きます。
自分のストレス解消法を2、3つ持っておくと良いでしょう。1つだけではできない時があると思いますので安心です。外でできるもの、家でできるもの、どこでもできるもの、3つあれば間違いないですね。
メンタルの後はフィジカルです。不思議と体調が良いと気分が良くなって心に余裕ができ、おおらかになります。いつもなら怒る場面に遭遇しても、こんな日は「まあ、許してあげようかな。」という気持ちになります。
身体と心はつながっているため、どちらかが良いともう一つも良くなります。反対に、身体が悪いと心も悪くなります。また、悪いことが起こっても身体が良ければ心が下がることを防ぎます。
ですから、普段から身体を整えることはメンタル向上につながり、無駄な痛みを防ぎます。上記の例に挙げた方たちは定期的な施術を受けてたにもかかわらず、怒って痛みにつながったわけですが、身体が疲れ切っていた、ストレスを溜めていた、よっぽど酷いことをされたかでしょう。
それでも、1回の施術で痛みがなくなったことを考えれば、定期的な施術が筋肉の張りを最小限にしたと言えます。施術していなければ筋肉が硬くなり、もっと強い痛みだったでしょう。
無駄な怒りは無駄で良いことはありません。冷静さを失い、思ってもみない行動をとってしまうことがあるものです。そして、痛みにつながることがあるわけですから、身体を整えて感情もコント―ロルし、無駄な痛みがでないようお気を付けください。
1977年生まれ。祖父・父・兄が揃って「整体・指圧・マッサージ」の治療院を開設する、いわばこの世界のサラブレッド。学生時代はスポーツ(ゴルフ)に取り組み、大学卒業後、会社員を経てこの世界へ。
2005年独立開業。以来、からだに触れながら、その背景にある生活スタイルやこころのバランスなどにも目を向けた、トータルケアを心がけている。
平成16年 国家資格 あん摩マッサージ指圧師免許取得(第121762号)